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能楽師・武田宗典の舞台活動・観劇活動を中心にした日記的四方山話


by munenorin

元気なお爺さん達

今日は国立能楽堂で定例公演。曲目は「花筐」でした。

シテは京都の重鎮・杉浦元三郎師。この杉浦師は、おそらくこの方御一人だけという能楽師としての大記録をお持ちです。
それは観世流での能の現行上演曲全てでシテ(主役)を勤めたことがあるという記録です(全曲開曲などとも言います)。

観世流には現在、およそ210番ほどの演目が存在します。しかしそれらの演目が、各地域で一定期間の中で全て均等に上演されているわけではありません。中には芸歴55年以上の私の父でさえ、上演されているのを観た記憶が無いという演目も存在するのです。それは例えば面白く演じるのが難しいという理由であったり、上演時間が大変長いという理由であったり、人数が大勢登場するために手間が掛かるといった理由であったりします。
私たち能楽師はこのようにめったに舞台に掛からない曲を「遠い曲」などと呼んだりするのですが、つまり全曲開曲しようとするには、単にシテとしての上演回数を増やすだけではなく、自主公演等で積極的に「遠い曲」を選択したりしながら、計画性を持っていかなければ絶対に達成は不可能なのです。そして言うまでも無く、ご本人の体力・気力が継続して充実していなければなりません。
この杉浦師が全曲開曲されたのは確か6~7年ほど前、現在はたぶん73~4歳でいらっしゃいます。

そして今日の「花筐」なのですが、多少足元に不安が残るものの、本当に御年齢を感じさせない若々しい謡と舞なのです。以前にも2~3度シテを拝見したことがありますが(一度は『葵上 梓ノ出』でツレでお相手をさせていただいた貴重な経験もあります)、能を面白く見せるツボというのか、そういったものを本当に良くご存知なのだなと思います。そして何より、楽しそうに舞台を動き回られている溌剌とした御姿が大変印象に残ります。
いつか遠い将来、自分にもこのように能を楽しんで舞うようなことが出来るのだろうか、と考えさせられます。生半可の経験値ではこの領域に行くことは出来ないでしょう。まずはとにかく能をたくさん舞っていかなくてはと思っています。

今日はその他大鼓の河村総一郎師(名古屋在住)が75歳、笛の野口傳之輔師(大阪在住)が74歳、お二人ともとてもそんなお年には見えない若々しさです。
普通に考えればこの暑い時期に東京まで足を運ばれるだけでも大変なはずなのですが、最近のご老人は本当にお元気です。

若者も負けてはいられませんね!
by munenorin | 2008-08-06 22:50 | 能楽日記