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能楽師・武田宗典の舞台活動・観劇活動を中心にした日記的四方山話


by munenorin

青木一郎能の会

今日は青木一郎能の会でした。

演目は「屋島 大事 奈須与市語」(シテ:青木一郎)と「羽衣」(シテ:青木健一)。

「屋島」はこの”大事”と”奈須与市語”の小書(特殊演出のこと:”奈須与市語”は間狂言の小書)がつくことで、源平合戦での源義経の武勇譚が最も写実的に表されます。もちろん観ていて一番面白い演出です。ただ動きの多い分、舞台上での間隔の取り方が難しく、またお囃子が特殊な手組を演奏するので、その兼ね合いも大変な作業になります。今日はそういった要素が比較的クリアになり、シテのなさりたいやり方で一曲を創り上げることが出来ていたように思います。

「羽衣」のシテはご子息の健一君。少し能を観劇されたことがある方なら、「羽衣」は最も目にする機会の多い曲の一つだと思います。しかし「羽衣」を”和合之舞”や”彩色之伝”などの小書のない、いわゆる普通の「羽衣」でご覧になられたことがある方はそんなにいらっしゃらないのではないかと思います。「羽衣」が小書なしで舞台に掛かるのは実は珍しいことなのです。
ですから普通の「羽衣」は、今日の場合のように「羽衣」のシテを若手が初めて勤める場合に出ることが殆どです。そして「羽衣」は小書があると、まず大体において詞章のどこかが省略されるのですが、小書なしだとすべての部分が上演されます。そしてこれが一曲すべてを勤めるとなると、意外と体力が要るのです。私も5年前にさせていただきましたが、かなり消耗した覚えがあります。
さて今日のシテの青木健一君ですが、年齢は私の4歳下。もちろん技術的にはまだまだ粗い部分もあるのですが、真面目で本番に強く、独特の”華”があります。
この”華”が我々にとって最も大事なのです。どんなに荒削りであっても、これがなければお客様を惹きつける事は出来ませんし、プロの舞台人として活動している意味がありません。彼にはこれからもメキメキと腕を上げていって欲しいと思います。

そして私自身は、彼のような勢いのある年下に絶対に追い越されないようにと、負けじと精進を重ねていかなければならないのです!!
by munenorin | 2008-06-30 00:25 | 能楽日記