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能楽師・武田宗典の舞台活動・観劇活動を中心にした日記的四方山話


by munenorin

稽古能

今日は午後から稽古能でした。

稽古能とはなんでしょう?・・・普段我々は舞台に立つことを主にして活動していますが、それでも主役であるシテを勤められる機会はせいぜい年間に3~4番程度、地謡や後見を除いたツレや仕舞等のそれ以外の役でも10数番といったところです。それならばと自分たちの研鑽のために、本番の舞台とは関係なく、志を同じくする仲間たちが集まり、ともに稽古に励むスタイルのことを稽古能といいます。自分たちの勉強のためですから、今の年齢では到底本番の舞台で勤めないような曲にチャレンジすることもあります。そのような事情から、もちろんお客様には一切非公開で行われます。

今日私が勤めさせていただいたのは、『正尊』という曲の中の「起請文」という謡の部分です。お囃子方の皆さんと合わせて、独吟形式(正座して一人で謡うこと)で勤めさせていただきました。
『正尊』の「起請文」は、『安宅』の「勧進帳」、『木曽』の「願書」と並び、『三読物』と称される大変重い(難しい)謡の一節です。今日はその「勧進帳」と「願書」も共に同じ形式で行われました。

やはり、難しいものだ、というのが実感です。

今日三つの読み物を並列してみて改めて実感したことなのですが、それぞれの読み物には性格の違いがはっきりとあり、まずそれを表現できなければなりません。それに加え、長い謡なのでペース配分をしっかり出来ていないと、息切れしてただわんわんと叫ぶばかりのようになってしまうのです。
今日の自分がどれくらいのものになっていたか、これからじっくりテープを聴いて確認してみますが、まだまだ読み物の重さに呑み込まれていたのではないかと思います。
おそらく『正尊』を勤めることになるのはどんなに早くても10年は先、そう考えれば体験させていただくことが出来ただけでも有り難いことだと思っています。

能楽師としての修行の過程で、私自身が少しずつではありながらも力を蓄えることが出来たのは、実はこの”稽古能”のおかげではないかと思っています。多いときでは年間30数日、この稽古能に費やしていました。本番の舞台とそれに向けての稽古はもちろん大事ですが、普段からそれ以外の様々な曲に実際に稽古して接することで、曲への考察が深まり、また能楽師としての視野が広がります。
これからも稽古能では色々な曲にチャレンジして、時には自分の力の足りなさを思い知りながら、能楽師として徐々にステップアップしていきたいと思います。
by munenorin | 2008-06-24 23:24 | 能楽日記