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能楽師・武田宗典の舞台活動・観劇活動を中心にした日記的四方山話


by munenorin

大役をいただいて・・・

今日は観世能楽堂で『修能会』でした。

小早川修さんが主催する演能の会で、今日の能は修さんの『大原御幸』と浅見真州さんの『烏帽子折』の2番でした。どちらも登場人物の多い曲目ですが、特に『烏帽子折』は子方(子役)が大活躍する能で、今日は修さんの次男・康充君が子方を勤めました。この康充君はその愛らしさとセンスの良さから、今まで子方としてあちこちから引っ張りだこだったお子さんですが、この『烏帽子折』を卒業論文として、今後は徐々に子方としての出演は少なくなる予定だそうです(16日の武田同門会には早速子方で出演されますが)。今回も期待に違わず大変に良い出来でした。特に終了後の宴会で、師匠格の浅見真州さんから「今後も能楽師として頑張っていくんだろ?」と尋ねられて、「ハイッ!」とはっきり返事をしていた姿が印象的でした。

私は『烏帽子折』の立衆(斬られ役)と『大原御幸』の後見の役を戴いていました。

立衆役は若手にとって機会の多い御役ですが、『大原御幸』の後見というのは、最初に番組を見せて頂いた時に『えっ?!』と我が目を疑ってしまうくらいのビックリ人事でした。
後見というのは、いざという時にはシテを代役する事が出来るくらいに一曲すべてを把握していなければなりませんし、何より経験が求められるので、若手にそのお鉢が廻ってくるというのは大変稀なことです。まして『大原御幸』という曲は能楽師にとって大変重い(難しい)とされる曲の一つで、舞台上での所作や装束の着付けなども難しく(通常登場人物の着付けはその曲の後見が担当します)、まさかそれが自分に廻ってくるとは思いも寄りませんでした。さらに一緒に後見をさせていただくのは、流儀の重鎮である野村四郎さん。自分ごときで勤まるのだろうかと本当に不安で、正直大変緊張しました。

精一杯勤めさせて頂いたつもりではありましたが、実際には本番になってみて初めて気がついたことなども数多くあり、自分の経験の無さを痛感しました。ただ今回のことをきっかけに、『大原御幸』という曲にしっかり向き合えたことは自分にとって何よりの財産となるでしょうし、またそのような場を与えて下さった小早川さんには、本当に感謝の言葉もありません。
能楽師には「演じる」「謡う」ということの他に、もう一つ「後見をする」という大切な仕事があります。今はまだ廻ってくる機会は少ないですが、今後は常にそのことも想定しながら日々の舞台に臨みたいと思っています。

さて、先月辺りから何かとブログをサボりがちではありましたが、実は先月には色々と印象に残る舞台がありました。またそれらについての記事も、おいおい書き記して行きたいと思います。
by munenorin | 2009-06-13 23:57 | 能楽日記