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能楽師・武田宗典の舞台活動・観劇活動を中心にした日記的四方山話


by munenorin

幻想の姫君

今日は夕方から、青山にある『鐵仙会能楽研修所』で『松能会』の舞台でした。
松能会は同門の松木千俊さんが主催している能一番と仕舞だけの会で、今日は能が『楊貴妃』、仕舞は『鍾馗 キリ』と『邯鄲 楽アト』でした。私は『鍾馗』の仕舞と『楊貴妃』の地謡でした。

『鍾馗』は中国の鍾馗様の伝説に基づいた話です。進士の試験に落第したことで自殺した青年が、死後に神霊となって、宝剣を引っ提げて悪鬼を退治し、国土を守護するというストーリーで、キリの仕舞では、その後半部を大変勇壮に舞い表します。
この仕舞を舞わせていただくのは、私は今回が初めてだったのですが、短い中にも独特の型があり、またペース配分にも工夫が必要であったりと、なかなか手応えのある仕舞でした。大きなミスはなかったとは思いますが、お客様がどのように観てくださったのか、大変気になるところです。

さて、もう一番の『楊貴妃』ですが、これも中国の有名なお妃の話ですね。能ではこの楊貴妃は少し変わった解釈で描かれています。
楊貴妃の死後、その死を悼んだ玄宗皇帝が方士(占い師)を派遣して楊貴妃の魂の在処を探ると、蓬莱宮(仙界のような所)で楊貴妃と巡り会うことが出来ました。楊貴妃は実は仙界から人間界に舞い降りた仙女だったという解釈なのです。方士は玄宗皇帝に、楊貴妃と確かに会うことが出来たという報告をするため、貴妃に形見の品を求めます。貴妃は最初は鳳凰を象ったかんざしを渡しますが、それに加え、生前皇帝と交わした二人だけが知る愛の言葉を方士に託します。そして人間界での暮らしを懐かしんで舞を舞い、やがて方士が帰って行くと、楊貴妃は涙ながらに見送るというストーリーです。

ファンタジー性と切なさに満ち溢れた曲で、私もかなり好きな曲なのですが、今日はシテももちろんのこと、特に地謡がかなり良かったのではないか、と思っています。私も参加していたので自画自賛のようになってしまいますが、地頭を勤められた浅井文義さんの謡が、曲のしっかりとした解釈に裏打ちされた明解なものだったからなのです。
浅井さんは私たち観世会とは違い、観世鐵之丞家を頭に戴く鐵仙会の所属ですが、舞台やお酒の席にたびたびお声を掛けていただくなど、公私共に大変お世話になっている先輩です。
自分も来月、七拾七年会で『安達原』の地頭を勤めますが、少しでも浅井さんを見習っていけるよう、精一杯取り組みたいと思いました。
今日は良い舞台に参加させていただくことが出来て、本当に良かったです!
by munenorin | 2008-11-21 23:23