能楽師・武田宗典の舞台活動・観劇活動を中心にした日記的四方山話


by munenorin

武田修能館歌仙会

昨日はそっけない記事でスミマセン。

昨日お知らせしたとおり、今日は中野坂上にある伯父の家の稽古舞台『武田修能館』で歌仙会でした。

さて、では歌仙会とは何なのか・・・。

平安中期、藤原公任が選んだと伝えられる、36人の優れた歌人達がいました。その歌人達は通称『三十六歌仙』と言われるのですが、それに因んで、能の演目36番を一日で謡い切ってしまおうという催しなのです。
私の主宰する「謡サロン」にお越しの方はご存知だと思いますが、能楽には総合ミュージカル演劇としての能という上演スタイルだけではなく、謡という台詞・歌だけで物語を伝える「素謡(すうたい)」という形式があります。その素謡の形式で、全く省略等することなく36曲上演するのです。

しかし能を少しご存知の方ならお分かりになると思いますが、謡だけとは言ってもまともに上演するとかなりの時間が掛かります。曲によっても長さやスピードがかなり違いますが、平均すると30~40分くらいでしょうか?となると普通に上演したら20時間くらい掛かってしまうことになるかもしれません。それはいくらなんでも無理がありますよね。

ではどうするか、というと・・・ものすごく速いスピードで謡うのです。

通常、謡というものには『位(くらい)』と呼ばれる、スピードや謡い方の基準が曲ごとにあり、それが延いては全ての芸の指針となっているのですが、この『歌仙会』だけはそれをあまり考えずに、スラスラと謡って良いことになっているのです。ただし条件として、しっかり力を入れた声で謡わなくてはならず、節付けなどのメロディーの上げ下げ等は正確に行わなければならないということになっています。
今日は同門の松木千俊氏のお素人のお弟子さん方をはじめ、プロの能楽師6人と40人近いお素人のお弟子さん方とで一緒に会を盛り上げて行きました。

この歌仙会自体は、以前は我々武田同門内でも何度か行われていたようなのですが、少なくとも20年以上行われずにいたのを、今回松木氏のご提案で復活させることになりました。というわけで私は人生初の体験でした。

プロの能楽師が6人。それを各曲概ね3人ずつで謡う為、普通に出ていればおよそ18曲です。結局自分は半分を少し超えて22曲出演しました(地謡は自由参加制なので、自主性によって出演数が違います)。お素人ではお一人が36曲皆勤、もうお一人35曲出演というツワモノもいらっしゃいました。ただプロとアマチュアの皆さんとの決定的な違いは、アマチュアの皆さんは謡本を見て謡う事ができる、我々は全て覚えて舞台に出なければならないということです。まぁ当たり前のことではありますが。
正直なところただ覚えて普通に謡うだけなら、今までの蓄積もありますし、全曲でも乗り切ることはそれほど難しいことではないと思います(ただし長時間の正座による足の痛みを別にすれば、ですが)。
しかし「ものすごく速く謡う」ということが思いのほか大変なのです。まず思い出したり、考えたりしている暇もないので、完全に覚えていたつもりでもふと謡が出なくなることがあります。また普段謡い慣れている曲のスピードから違うスピードにすると、違う曲が口をついて出てきたり、ひどい時にはろれつが廻らなくなったりするのです。これには本当に焦りました008.gif

それでも何とか無事に乗り切り、結局朝9時から始めてノンストップで18時ちょうどまで。総計9時間、一曲平均15分ですから、通常の2倍以上の速度で謡っていたことになります。その後の宴席でも話が出たのですが、これは一般的に見てもかなり速いスピードだったようです。

このお話で分かるように、この「歌仙会」というものは、どちらかといえば人にお見せするための催しというよりは、謡に携わる人達の究極の研鑽方法として考え出された手法なのだと思います。
この間お知り合いになった方から、「芸術にプロもアマチュアもない」ということを仰って頂き、とても印象に残っています。私も全くその通りだと思います。だから今日もプロ・アマチュアに関わらず、「謡を愛する人たち」が精一杯謡を謡い、充実のひと時を過ごしたのです。

現在は謡曲を習われている方が極端に少なくなってきてしまっているのですが、ぜひお一人でも多くの方に実際に声に出して頂き、謡の魅力を楽しんで感じて頂けたら、と心から願っています。そしていつの日か、私のお弟子さん達と素敵な『歌仙会』を開催してみたいと思っています001.gif
これからも皆さんに謡や能の素晴らしさを伝えるために、精一杯頑張ってまいります!
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by munenorin | 2008-09-29 00:26 | 能楽日記